これは人権問題だけではない。虐殺と搾取を伴う植民地支配である。
言葉を奪われ、宗教を奪われ、資源と食料を奪われ、 人としての尊厳までをも奪われ、それでも独立国家 「東トルキスタン」国民としての気概を失わない ウイグル人の真の声がここにある。 《ウイグルの真実の歴史》 ◎ウイグル人が初めて支配下に置かれたのは「清朝」から ◎なぜウイグルは中国の植民地になったのか ◎旧日本軍の構想にあった幻の「防共回廊」 《中国の「新疆ウイグル自治区」支配の実態》 ◎地下資源と食料、水源の支配と40回以上もの核実験 ◎中国語の強制、ウイグル語教育の禁止、宗教への弾圧 ◎職業訓練所という名の「強制収容所」で日々行われる拷問 ◎民族浄化、ウイグル人女性へのレイプ容認、強制避妊、中絶強要 ムカイダイス 著 2021.03.28 発行 ISBN 978-4-8024-0112-8 C0030 四六並製 248ページ 内容紹介 —— 中国の植民地下に置かれ、いわゆる「新疆ウイグル自治区」と呼ばれている私の祖国の東トルキスタンでは、共産党政権が二〇一六年から各地に多数の巨大な「強制収容所」を作り、今では三〇〇万人以上のウイグル人がその中にいるとされる。国際的にも周知の事実である。 それだけではない。在外のウイグル人の九〇パーセント以上が、三年ほど前から東トルキスタン内の家族や友人と連絡がとだえたまま。私的なことを言うと、私は、ウルムチの実家がどうなっているか、弟がどうなっているかも知らない。知る術もないまま悲しい時ばかりが過ぎていく。私だけではない。在外のウイグル人、皆が同じような状況にある。 今、日本でも一部の心ある日本人や在日のウイグル人がウイグル問題を伝えてくれている。彼らによってウイグルの現状が時には人権問題として、時には中国の宗教弾圧の行き過ぎとして報じられ、日本社会に伝わって問題提起されている。ありがたいことだがまだ十分とは言えない。 ウイグル人にとって「新疆ウイグル自治区」とはどんな存在なのか。中華人民共和国はどのように「東トルキスタン」という主権国家を一自治区として包含することができたのか。中国の憲法で定められている「自治権」はどのくらい守られているのか。 これらの史実問題を整理すると、ウイグル人側から見た時に「新疆ウイグル自治区」は日本の学者が捉えているような中国の民族政策の賜物では決してないことがわかる。ウイグル人にとって「新疆ウイグル自治区」は、ウイグル人が平和のために戦争を放棄した結果、中国共産党に騙された結果、母なる祖国のために犠牲を払うことを怠った結果なのである。 アジアの現在の状況を考えると、「もしあの時、ウイグルが独立していれば」と思うことがある。しかし歴史は変えられない。せめて日本国民が「将来、このような悲劇が起こらないようにするにはどうすればいいのか」という問いを自らにかけ、国を容易く中国共産党に差し出してしまったウイグル人がおかれている、想像を絶する現状と悲しみに向き合ってくれれば、私たちのような過ちを起こさないように教訓を得てくれれば、と思う。 今でも強制収容所の中に入っているウイグル人のことを考えれば、世の冷たさにいささか失望し、正義や人道などは何の意味もないのかと諦めている気持ちを隠せないのも事実。 この本が、日本の皆様に「国があり、そして主権国家の国民として生まれる幸せ」、あるいは「国がないことがどういうことか」などを考えさせてくれることを願う。そしてウイグルの歴史が、侵略を安易に許す側も侵略者同様に平和の破壊者であり、罪人であることを悟らせてくれることを願う。何よりも、世界に迫り来る中国の覇権主義の、実態解明の一端を担ってくれることを切実に願う。 目次 —— はじめに 第一章 日本に生きるウイグル人として 私はウルムチ生まれのウイグル人 父と母はムスリムの共産党員 一九八〇年前後のウイグルの政治と社会 ウルムチという町 親友はモンゴル人と漢民族の子 母の実家は古の鍛冶屋一族 日本へ 第二章 東トルキスタンの三度の独立と挫折 ウイグルはなぜ中国の植民地になったのか 東トルキスタンの歴史 ヤクブ・ベグ政権による東トルキスタンの主権回復と消滅 東トルキスタン・イスラーム共和国の誕生と崩壊 一九四四年の「東トルキスタン共和国」謎の飛行機事件で消えた指導者 ウイグル人の不屈の精神 第三章 幻の「防共回廊」 ウイグル人の親日と中国共産党の反日教育 『見果てぬ「防共回廊」』のウイグル語訳と私 『防共回廊』と異なる視点での研究 『防共回廊』が生まれた時代背景と失敗の原因 「防共回廊」の全体像と生みの親──林銑十郎 「防共回廊」の最強のパートナーは東トルキスタンのウイグル人 第四章 「新疆ウイグル自治区」の歴史と政治 中華人民共和国と五つの「少数民族自治区」 核実験 漢民族の大量入植政策 新疆生産建設兵団 「西気東輸」と「西部大開発」 バイリンガル(双語)教育 「バイリンガル教育」の現場レポート ウイグル語と「バイリンガル教育」未来の展望 第五章 強制収容所の実態 強制収容所の規模・収容された人々・中国当局の嘘 証人たちの証言で露わになった強制収容所の仕組み ケリビヌル氏の証言の詳細 証人の言葉から浮かび上がる「強制収容所」の内と外 ウイグルで起きていること「中国共産党の狙い」 「強制収容所」計画が立てられた時期と背景 中国共産党の狙いとウイグルの今後 第六章 ウイグル文学と詩人たちの光と陰 ウイグルの文学とは ウイグルの詩 ウイグルの現代詩 ウイグル現代詩の誕生背景とアフメットジャン・オスマン ウイグル現代詩と中国の朦朧詩 ウイグル現代詩の詩人五人の光と陰 おわりに 解説 三浦小太郎 巻末付録 「強制収容所に収容されているウイグル知識人リスト」